2023/06/06

INTERVIEW

「五感を満たし、自分と向き合う場にしてほしい」エシカルウェディングフェス主催・辰巳碧さんにインタビュー

エシカルウェディングフェス「私たちの未来記念日-in 淡路島」を主催している、ウェディングプロデューサーの辰巳碧さんにインタビュー。エシカルの先に、人と人、地球を紡いでいく、五感が満たされる豊かな場所がそこにはありました。


想い合うという時間こそが、やさしい未来を迎えに行く

――6月3日(土)に淡路島で開催したエシカルウェディングフェス「私たちの未来記念日」は、具体的にどんな内容なんですか?
「このイベントは『地球にも人にも優しい』というコンセプトに基づいて、五感を通して体験してもらえるように企画しました。ゼロウェイストまたはレスウェイストを目指した会場装飾、リメイクやロスフラワー、オーガニック農園からのお花を使ったブーケ、フェアトレードやオーガニックコットンのドレスやヴェール、おばあちゃんのアクセサリーを溶かして作った循環型のジュエリーなど、人にも地球にもやさしい装飾やアイテム、環境ですべて創り出しています。
具体的にいうとドレスは土に還るものを使ったり、開催場所の菜音ファームのまわりを剪定して出た枝や草木などを使ったフォトブースにしたり。陶器の欠片やシーグラスなどお好きな物から、欠片を継いで新たにつくる現代金継ぎの箸置きをつくるワークショップも実施しました。淡路島の料理人の方々にも協力してもらい、地元の食材をふんだんにつかったウェディング前菜盛り合わせの試食も付いています。また、フェスでは実際のカップルのおふたりに参加いただき模擬結婚式も行いました。」

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模擬結婚式に出てもらう淡路島在住、婚約中のふたり。ドレスは土に還るものしか使っていません

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足元はエシカルなシューズブランド『offen』でドレッシーに飾って


――ゴミを出さない結婚式なんですね。
「はい。なるべく環境に負荷のない形を心がけています。ただここで私たちが大切にしたいのは、美味しいとか楽しいとか、可愛いとか心地よいとか、そんなふうに五感が満たされる場であること。
そこを大切にして選んでいった先に、エシカルがあったという感じなんです。
そして結婚というのは身近な人を想い、尊重するということ。その先に、地球にもやさしくしたいと想う気持ちがあるというのは、ごく自然なことだと思っています。すべては繋がっているので、ただ“エシカル”という言葉がひとり歩きしたり、前面に押し出すというのは違うな、と思っていて。地球を守りたいとかそんなおこがましい話ではなく、もっと地球と一緒に遊んでいたいから、仲良くしたいし、手と手をつないで寄り添っていたい。だから人と同じくやさしくしよう!といった気持ちなんです。」

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金継ぎしてつくる箸置き

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協力してもらっている庭師の枝人(えだんちゅ)の谷岡雄介さん。イベント前日にファームの枝木を剪定し、フォトブースの装飾をつくってもらいます

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ドレスは纏っていて五感が喜ぶものを。見た目も、着心地も大切にしている

――「私たちの未来記念日」というキャッチコピーをつけた理由は?
「参加しているすべての人たちが、『自分が欲しているものは何か』を考える機会であってほしい。心が向いている矢印をまわりの環境や他人ではなく、自分に向けてあげられるやさしい時間を過ごすことで、思い描いている未来はやってくる。コピーライターさんと相談しながら決めたのですが、そんな想いを込めました。イベントコピーも、『やさしい未来は、想い合う時間からの贈り物です』というものにしました。」

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昨年11月に碧さんが主催して行ったエシカルウェディング

――もともとブライダル業界には携わっていたんですか?
「はい。人の笑顔を見るのが大好きだし、ハッピーな空間をみんなで創り上げていくブライダルの仕事に携わりたくて、大阪のウェディング会社に就職したんです。ただ、いわゆる昔からのウェディング業界の常識は、正直心も体も疲弊させるものがありました。『果たして、私はお客様に満足いくサービスができているのだろうか』。そんな疑問を感じていました。そして時間もお金もたくさん使っているのに、その場限りで捨てられていくものたちを見ているうちに、違和感を覚えるようにもなりました。そんなことを考えるようになり、いったんウェディング業界から離れてみようと思って、沖縄県・石垣島に移住したんです。」

――どうして石垣島だったんですか?
「昔から海や自然が好きで、海の近くにいるだけで心身がチューニングされて、自分が自分らしくいられるんです。もともと石垣島は好きな場所だったので、移住しました。」

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美しい石垣島の海や自然。何度でも帰りたくなる場所

――またウェディングのお仕事に戻った理由は?
「石垣島ではホテルのフロントツアーデスクのお仕事をしていたんですが、美しいビーチやサンセットが見える場所などを見つけると、『ここで結婚式ができたら素敵だろうな』とすぐに思い浮かべてしまっている自分がいて。なんだかんだこの仕事が好きなんだな、と再認識したんです。改めて『結婚式というものに向き合ってみたい』と、ホテルのお仕事は続けつつ、石垣島のウェディング会社に直接ご連絡して『単発でいいのでお手伝いさせてほしい』とお願いしました。」

――一度離れたからこそよかったのかもしれないですね
「そうだと思います! でも最初はカルチャーショックでした。受付の時間になっているのに参加人数の半分も来ないし(笑)、勝手にワンちゃん連れてきたりとか……。でも、そんなゆるさが沖縄の魅力。大阪では1分1秒でも遅れちゃダメ!というマインドだったので、自分が持っていた概念がガラッと変わりました。
石垣島での結婚式は、時間に縛られることなく大自然のなかでバーベキューをしたり、みんなで踊って騒いで、とにかく素敵な空間とみんなの笑顔がキラキラ輝いていて。自分自身がすっごく楽しかったんです。今までの結婚式ってなんだったんだろう?と思うくらい、衝撃を受けて。そのとき、私にももしかしたら人にも地球にもやさしい結婚式が創り出せるのかもしれない、と熱い想いが蘇り、再度挑戦しようと思って一度関西に戻りました。」

――それから今回のエシカルウェディングフェスを開催することになった経緯は?
「神奈川県の逗子・葉山で開催されていたエシカルウェディングフェスに参加したことがきっかけです。誰かのインスタでこのイベントを知り、しかもスタッフを募集していることを知って、直感的に『行きたい!』と思ったんです。昨年石垣島は離れて神戸には移住していたのですが、とはいえ逗子まで行くのは遠いし、交通費が出るわけでもない。でもなぜかこれは参加すべきだと思いました。そして実際に参加したら、出展者も参加者も、イベントの雰囲気も、とても豊かな空間が広がっていて。自分が思い描いていたものが全部あって。自分が創り出したいウェディングはこれだ!と感じたんです。そして、このイベントを自然豊かな淡路島でやりたいと思ったんです。
淡路島で人気のオーガニックマルシェ『島の食卓』なども開催している菜音ファームさんがすぐに思い浮かんで、戻ってすぐに行ってここで『結婚式をやりたい』とオーナーさんに交渉しました。みんなすぐに『いいね!』と共感してくれて、料理はこの人がいいとか、空間づくりならこの人とか、いろんな人を紹介してくれて。淡路島の方たちの全面的なサポートがあって、話を進めることができました。」

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イベント開催地の菜音ファーム。淡路島でオーガニックなお米や野菜を育てる農園を営みながらキャンプ場と石窯ピザのカフェを経営している

――大変だったことや苦労した点は?
「大変だったというよりとても時間をかけたのが、作り手の想いをしっかりとまわりに伝えること。人によってエシカルやオーガニックの価値観、経験してきたことは違う。それを一つの方向に向いてもらうことが私の役割なのですが、だからこそそれぞれの良さ、素晴らしさを丁寧に伝えていきたいという想いが強くて。そこはすごく考えました。こういったエシカルやオーガニックという言葉は、ある種デリケートな部分があり、包括して言い表せない部分があると思うんです。一人ひとりの想いやストーリーをちゃんと届けていきたい。間違った表現にならないようにケアしていきたい。そのためにはコミュニケーションをとることが重要で、そこは大事にしていきたいと思っていたので、そのための時間や労力は惜しまないようにしていました。」

――最初の開催地を淡路島にした理由はなんだったんでしょうか。
「淡路島は今すごくパワーにある場所だと思っています。自然はもちろん、人の力がすごい。挑戦の島、始まりの島とも言われていて、何かを始めようとしている人がとても多い。ここから世界に行く人も多く、世界の中でもかなり高いレベルだと思っています。そんなパワフルな淡路島から始めたかった。これは私の感覚でしかないんですが、淡路島は地球の丸みを感じるんです。昔から地球儀で遊ぶのが好きだったのですが、そんなふうに地球で遊んでいる感覚を取り戻せる場所でもあります。淡路島のあとは沖縄、ハワイと拠点を広げていく予定です。」

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フェスではパワフルな淡路島の野菜を使った、スペシャルな料理もいただける

――最後に、今後の碧さんの展望を教えてください!
「まず、今回のエシカルウェディングフェスを通して本来の自分と取り戻す、感じてもらうきっかけになってほしいと思っています。結婚式のための結婚式ではなく、私たちが、地球がやさしく微笑んで愛に満ちた時間があり、そこに結婚式があった。それだけなんです。そしてどんな未来を描きたいか 改めて考えるきっかけになってほしい。数年後、数十年後も、その時の気持ちを思い出せる場であってほしいと思います。10年後、その子どもたちにも伝わったらいいし、その場にいた誰にとっても未来記念日になってもらえたらと、心から願っています。私はそのお手伝いをしているだけ。
今回のフェスだけじゃなく実際の結婚式もプロデュースしていますが、そのふたりがどんな未来を描きたいのかということをとても大切にしながら創っています。その場限りの形骸的な結婚式は必要ないと個人的には思っていて。いろんな場所で、これからも五感が満たされる場をつくっていければいいなと、思っています。」

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笑顔が素敵な碧さん

今年の11月にも淡路島でエシカルウェディングフェスは開催予定!
エシカルウェディングフェス「私たちの未来記念日」

主催:“紡〜TSUMUGU〜Wedding”
開催場所:菜音ファーム
Instagram:@miraikinenbi_ethicalweddingfes

Text by Sonomi Takeo

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