2023/06/14

INTERVIEW

やさしさを100%出したくなる!?沖縄から誕生したクリーンアクティビティとは?

左:金城由希乃さん

ワンコインでできるクリーンアクティビティ「マナティ」を立ち上げた金城由希乃さんにインタビュー。ゴミ拾いで人々を繋ぐプロジェクトとは?

――“クリーンアクティビティ”という発想はどのようにして生まれたのでしょうか。
「私は沖縄で珊瑚にやさしい日焼け止めクリームを開発したのですが、その仕事で西表島に行ったときのことです。ファンタスティックな島だとはしゃいでいたのですが、海に着いたらすごい量の漂着ゴミに驚きました。『なんとかしなきゃ!』と思ったのですが、拾ったところでどこに持っていけば良いか分からない。人も歩いていない僻地で、車にゴミ袋を積んでホテルに持っていくのも迷惑だし…『あれ?私何もできないの?』って悲しくなりました」


沖縄の美しい海

――ゴミ拾いをしたくてもできなという状況だったのですね。
「そうなんです。日本ではよく『ゴミ拾いをしましょう』って、看板があったりメディアで言われているのに、実際にはゴミ拾いがしたくてもできない状況。どこに捨てたら良いのか分からないんですよ。そこに矛盾を感じました。帰ってからも、あの時なぜゴミも拾えなかったのだろう、どんなシチュエーションだったら拾えたのだろう…ってずっと考えていました」

――近年はゴミ箱が減ってしまいましたしね。
「ゴミ箱がないからできなかったわけですが、でもゴミ箱を置いたら解決できるのか?ゴミは集まるでしょうけど、それを回収するためにはマンパワーがかかります。お金も時間も。とても大変なことで、私がそれを全てボランティアすることが良いことなのか?と疑問がループしていました。
漂着ゴミを見て捨てたいとか、海や土地のために何か良いことがしたい、地球のために何かできないか…そう思っている人はたくさんいるけど、どうしたらすぐに行動できるようになるか、本気で仕組みを考え始めました。
ゴミのことって、地域のルールに則らないといけないんですよね。全て市町村の管轄なので、やはり地元の人の協力がないといけない。地域の人にルールを教えてもらって、成立させるためには…と思いついたのが“観光”です」

――ゴミ拾いと観光が繋がるとは!
「昔は人と関わりやすかったけど、今は沖縄もシステマチックになってしまって。ガイドの人とは話せても、観光者が地元の人と交流することはほとんどなくなってしまっている気がしていたんです。『観光ってこういうことだっけ?』とがっかりすることも多くて。土地を訪れる人は交流することを望んでいると思うんです。それをゴミ拾いと繋げることができたらと考えました」

――確かに、旅先で地元の方と話をすることで、その場所を深く知り、どんどん愛情を持つことができますよね。
「はい。沖縄の人と仲良くなって、地元で作られるモノの素晴らしさを理解し…また来年来たいと思い…たとえ行けなくても思いを馳せたりして…。それこそが観光だと思うんですよね。価値を理解できる人が、ちゃんとお金を払って土地ごと楽しめたら良いなと。
だから地元の民間の方に受付をしてもらえる仕組みを作ったら、良い繋がりが生まれるのではないかと思いました」


黄色のマナティバッグが目印!

そうしてできたのが、ゴミを入れるための黄色のバッグが借りられるスポット(パートナー)を訪れ、ワンコイン(500円)払うだけのクリーンアクティビティ。ゴミ拾いをしたらバッグごとスポットに戻すというとてもシンプルな仕組みだ。金城さんは沖縄のあらゆるスポットにパートナーになってもらい、このアクティビティを実現した。
「そんなアクティビティにいくらなら出せますか?1000円は出せないと思うんです。でも500円というワンコインなら、出しやすいのではないかと。
観光で行った先で何かしたいと思った人と、是非やってくださいという人が繋がれたら、嬉しいじゃないですか。これが事務的だと全然面白くないけど、海や地球に対する想いが同じ人と繋がれるんです。意思表示がはっきりできている者同士だから。そんな楽しいアクティビティを500円でできたらいいですよね?」

――パートナーもどんどん増えているそうですが、どのようにして増やしたのでしょうか。
「営業のようなことはしていないんです。最初は観光協会で働いている友人に相談したら、すぐに南城市が手を上げてくれました。お店をやっている知り合いに話して協力してもらったりして、少しずつ広まっていき、地元メディアにも取り上げてもらえるようになりました。『新聞を見ました』と言って問い合わせをしてくれた方もいます。沖縄北部の国頭村の役場からは、マナティの説明会をしようと声をかけていただいたりして、パートナーは着実に広がっていきました」

――同じ想いを持つ方は多かったのでしょうね。
「嬉しいですね。
パートナーになることは無料です。民間の方が気軽に参加できるプロジェクトにしたかったので、ルールも緩いんです。お客様からいただく参加費の半分を、年に1回集金するくらい(笑)。みんな、心意気で参加してくれているので、かしこまりたくはなかったんですよね。
参加費一人500円というのは、パートナーの方に対して、役所との連絡など最低限の手間賃としてお支払いする分と、あと半分はバッグを用意するための事務局側の手数料。この仕組みで、『やりたい!』と手をあげてくださる方が多くいることは本当に嬉しいです」

――この活動でどんな未来を目指していますか?
「一つは、沖縄に限っていることではなく、バッグがあってゴミが処理できればできることなので、世界中に広がったらいいなと考えています。
そしてマナティのいいところは、ゴミをなくしたいということはもちろんですが、地域と繋がれるということ。自分がどんなにいいことしたいと思っていても、田舎の方に行けば、ただ得体の知れない人として不信感を抱かれるだけだったりして…。それは見た目でしか判断できないから仕方のないこと。でもマナティバッグを持っていれば、ゴミ拾いに来てくれたんだということがわかって、不信感ではなく、信頼関係が生まれます。参加する人が、気持ちよく地域に受け入れてもらえるということも、私の願いなんです」


漂着ゴミの中を拾って見つけた貝殻

――このアクティビティを体験している人は広がっている印象ですか?
「正直なところ、そこまで細かく把握できていません。もちろん広がれば海はどんどん綺麗になるので嬉しいですが、まずは受け入れる人がやさしい気持ちで待っていることが大事だと考えています。
今の時代、いいことしたい!って思っても色々と考えてしまいます。例えば席をゆずるだけでも、『断られたらどうしよう』と考えて、やさしさを表現できないままだったりして。ギスギスした社会ですよね。やさしい気持ちがすぐに受け入れてもらえたら、やさしさは拍車がかかるはずだから、もっといい世界になると思うんです。やさしさ、愛は循環するものだから。
マナティのバッグは、『ここに行ったらやさしさを100%出していいんだよ』っていう安心マーク。これは一つの取り組みにすぎないけど、いろんなところでそんなやさしい選択ができるといいなと思います」


愛が減ってしまっていると嘆く金城さんが生み出したゴミ拾いアクティビティ。受け入れてくれるマナティの“パートナー”も、アクティビティに参加する観光客も、愛を感じられるあたたかいプロジェクトだ。想いさえあれば、誰だって気軽に参加できるのだから、この記事を読んで気になった方は是非やさしさを表現してみては?

 
マナティバッグが借りられるスポットはコチラ
パートナーになりたい方はコチラ



金城 由希乃
株式会社マナティ代表取締役。沖縄県沖縄市出身。
海の環境保全活動の一環として化粧品等の商品開発・販売を手掛け、2017年に発売した「サンゴに優しい日焼け止め」は日本青年会議所主催「JCI TOYP 2019」で環境大臣奨励賞、「生物多様性2018アクション大賞」で審査員賞、「サステナブルプロダクツアワード2021」「 日本ネーミング大賞2022 地域ソウルブランド」最優秀賞を受賞、プロジェクト「マナティ」は「グッドライフアワード2022」地球と人への想いやり賞を受賞

Text by 関 早保子