2022/02/19

INTERVIEW

【湘南PEOPLE】鎌倉のお寺まわりで出会える!話題の「野生のコーヒー」に込められた想い

100%天然で育つ、稀少な野生種のコーヒー豆を焙煎した「野生のコーヒー」を、鎌倉を拠点にキッチンカーで移動販売する村越美保さんにインタビュー。コーヒー販売を始めたきっかけや、これから目指していることとは?


――美保さんが「野生のコーヒー」の移動販売を始めたきっかけはなんだったんですか?
「単にこのコーヒーのファンだったんです。実は、もともと私はコーヒーが嫌いで(笑)。
紅茶やハーブティーばかり飲んでいたのですが、『このコーヒーは美味しい!』と思えたんです。無農薬で品質改良もしておらず、上質な豆ということもありますが、私はその背景やストーリーが大きく影響していると思っていて。」

null

null
定番のブラックコーヒーのほか、珍しい「白いコーヒー」も。極浅煎りしたコーヒーで、低温で焙煎されています。
苦味はほとんど感じず豆茶のような味わい香りが良く、すっきりした味わい。


――このコーヒーはNPO法人が直接エチオピアから輸入していると伺いました。
「はい。『搾取のないコーヒービジネスを』というエチオピアからの依頼がNPO高麗(こま)という団体にあり、始まったコーヒーです。このコーヒー豆は中間業者が入っていないため、ブレンドされることなく直接NPO高麗(こま)に送られてきます。コーヒーは世界中がマーケットゆえに、その裏側ではさまざまな問題を抱えていると言われています。産地をたどってみると発展途上国がほとんどで、コーヒー豆の生産者はコーヒーの売り上げのほんの一部しか受け取っていません。この『野生のコーヒー』は、売り上げは生産している農家へしっかりと還元できる仕組みを作っているんです。『野生のコーヒー』という名前なのも、人が栽培したものではなくエチオピアの原生林に自生している木から採取した豆から生産されているから。そんな想いやコンセプトにとても共感して、最初はボランティアで販売を手伝っていたのですが、自分も本気で関わることで広めていきたいと心に決め、移動販売を始めました。それが6年前くらいですね。」

null
ワゴン車でコーヒーを販売

――コーヒーとの出会いは?
「このコーヒーは即興演奏されるアーティストのいだきしんさんの音楽を流しながら焙煎されているのですが、たまたまいだきしんさんのコンサートに伺った時にこのコーヒーの存在を知ったんです。少し見えない世界のお話になってしまいますが、やっぱり食べ物にはエネルギーが宿るというか、生産者の辛さとか悲しみのようなものも味に現れるんじゃないかと思っていて。以前はコーヒーを飲むと体が拒否反応を起こしてしまって、ひと口ふた口飲めても一杯飲み切るということができなかったんです。『野生のコーヒー』を飲んだ時、とても清らかで体が喜んでいる感じがしました。」

――音を聴かせることでどんな影響があるんですか?
「サウンドを聴かせることで、ふっくらとした仕上がりで、さらに味わいが洗練される感じがします。苦味やえぐみがなく、まろやかになる印象です。販売中もずっと流しています。」

――『野生のコーヒー』はエチオピア産ですよね。なぜエチオピアだったんでしょうか。
「20年ほど前にエチオピアは世界で一番貧困の国となり、病気や飢餓で亡くなる人が増えました。NPO高麗(こま)代表の高麗恵子さんが何かできないかとエチオピア大使館に直接話しにいったそうです。政府の方からは『お金や物は一過性のものなので、根源的に人の内面が豊かになることをしてほしい』と依頼されたそうです。そして高麗さんはいだきしん先生のコンサート開催をエチオピア政府にご提案されました。それを聞いて政府は、『あらゆるこの世の境界、例えば民族、宗教、政治的な境界を越えるだろう』いう思いのもとエチオピアのコンサートを開催。コンサートに向けて全土を旅している時に高麗さんはエチオピアからコーヒービジネスの依頼を受けられたそうです。エチオピアは人類発祥の地であり、コーヒー発祥の地とも言われています。『美味しいものを美味しいままに伝えてほしい』という思いを聞いて、とても美しいストーリーだなと感じました。少しでもこの現実や想いというものを伝えるお手伝いができたらと思って、地道にですが鎌倉で移動販売をしています。」

null
ドリップも販売している

――鎌倉の地を選んだ理由は?
「鎌倉は独立して自分で仕事をするのにいい街だと思ったんです。何か新しいことを始めようと移住している人も多いですし、東京のように広すぎないので、コミュニティがいい意味で狭いからみんなが助け合って働ける環境だと思いました。決して贅沢をしているわけではないのに心に余裕がある人が多い気もします。」

――鎌倉出身ではない?
「生まれは神奈川県川崎市です。20代の頃は東京で画家として活動していたのですが、結婚、出産を経て、その後離婚することになり実家に戻りました。その時は実家が横須賀に移っていたので横須賀に住んでいました。そこで子どもを育てながらなので自宅で仕事ができることをしようと思い、通信系の会社を立ち上げて、6年ほどは続けました。その後『そろそろ自分が好きなことをやりたい。本気で積み上げていける仕事がしたい』と、思い切ってずっとやりたかったこのコーヒーの移動販売を始めたんです。」

――美保さんはお寺を中心に販売されていますよね。海の近くなどで販売したほうが人目にはつきそうですが……。
「お寺はやっぱり、静かで空間が澄んでいて、気持ちいいんです。北鎌倉にある浄智寺を中心に鎌倉のお寺などで販売していますが、人がガチャガチャしている場所だとコーヒーのコンセプトをうまく伝えられない気がして。もともとは北鎌倉の明月院通りにある葉祥明美術館というところで販売させていただいていたのですが、そこで浄智寺さんをご紹介いただきました。そういった風に人と人との繋がりがたくさんあるのも鎌倉の魅力ですよね。」

コーヒーの販売をしながら、自宅ではご両親が経営しているペットホテルの鎌倉店を任されている美保さん。ケージを使わない、猫ハウスの経営と両立している。
子育てもあり、仕事の両立は大変なこともあると思うが、「コーヒーの販売はどんな仕事をやっていてもベーシックに続けていきたい」と美保さんは語る。

「自分が生きている限り、おばあちゃんになってもコーヒー屋さんでいたいです。人に会って、人が美味しいと言ってもらえるのがうれしい。といいながら単にコーヒーが好きでやっているとも違うので、もしかしたら邪道なのかもしれないけど(笑)。このコーヒーのコンセプトはずっと伝えていきたいと思っています。
子どもの頃から同じ地球上で、食べ物がなくて子どもが亡くなっているという現実が理解できなかったんです。ずっと大人になればどうにかできるはず!と思っていたけれど、実際に大人になったら何もできなくて。でも一人ではできないけれど、みんなで協力して行動を起こせば、多少なりとも世界は変わるかもしれない。本当に微々たるものかもしれないけど、このコーヒーを販売し続けることで、何か世の中のお役に立てたらいいなと思っています。とはいえ美味しくないと意味がないので(笑)、美味しく飲んでほしいという気持ちを込めて淹れています。」

――春になったら散歩しながらコーヒー飲むのもいいですね!
「そうですね。桜も咲いたら鎌倉もお散歩にもちょうどいいので、ぜひお立ち寄りください!気まぐれにインスタなどで出店日はお知らせしています。」

null
鎌倉のお寺で、美味しいコーヒーを


ここ数年で、作る人にも飲む人にもやさしいフェアトレードコーヒーは増えてきた。フェアトレードとは、書いて字のごとく「公平に(=フェア)貿易しよう(=トレード)」というもの。その市場は拡大してきているものの、実態はまだまだ問題が山積みという声も聞く。
自らが手にする日用品が、人にはもちろん地球にもやさしければ、持続可能な世界に一歩近づくはず。一杯のコーヒーが、そんなことを考えるきっかけになりそうだ。

Instagram
@miho_murakoshi

Text by Sonomi Takeo