2021/03/03

INTERVIEW

【湘南PEOPLE】「“援農”で新しい農業スタイルを!」新鮮で安心な食を守る地域プロジェクトとは?

昨年のコロナ渦の中、農業界に新たな風を吹かせる「ニュー農マル」というプロジェクトが、湘南鎌倉の地で立ち上がった。地域の人々が、“援農”という形で農家をサポートするという新しい農業への関わり方だ。このプロジェクトがどんな未来を描いているのだろうか? 

今回はプロジェクトリーダーである河野竜二(こうのりゅうじ)さん、メンバーの小松晴香(こまつはるか)さん、和光大(わこうだい)さんの3人にお話を伺った。 

ーー『ニュー農マルプロジェクト』を始めたきっかけを教えてください。
河野竜二さん(以下河野):僕は数年前から地元である湘南エリアを盛り上げるべく、イベントを開催したり、鎌倉のことを好きな人に対して情報発信したりする活動をしてきました。その活動のなかで鎌倉野菜のことを取り上げる機会があり、当時いろいろ調べている際に鎌倉市関谷にある野菜直売所『鎌倉野菜市場 かん太村』のオーナー・田村さんに出会いました。田村さんはもともとゴールデン街でお店を出されていたり、海の家を経営したり、紛争地でカメラマンをしていたり、とにかく面白い人。年に1〜2度は畑のお手伝いをしたり、一緒にお酒を飲んだりする仲になりました。


<右から>リーダー河野さん、かん太村の田村さん

そんななか、もともと僕はイベントの仕事がメインだったんですが、昨年の新型コロナウィルスによる影響で、予定していたものがすべてキャンセルになっちゃったんですね。それで、田村さんに「最近どうですか?」と連絡をしたら、野菜を卸していた飲食店がまともに営業できない状況だから、「やっぱり相当、厳しいよ」とおっしゃっていて。僕も暇だったし、畑を頻繁に手伝うようになったんです。そしたら畑に入って汗かくのって楽しいし、何より「ありがとう」と言ってもらえるのが嬉しい。「もっと鎌倉の農家さんをサポートしたい」と思うようになりました。世界を見ても、農や食に対するニーズがあると感じているのもありました。

ーー昨年の5月にはプロジェクトをスタートされたそうですが、すごいスピード感ですね。そこからどんな風にチームメンバーを集めたんですか?
河野:畑を手伝うときに友人達も誘ったのですが、彼・彼女らにプロジェクトメンバーとして声をかけたり、その友人達からも紹介してもらったり、インスタで発信したりしながら広がっていった感じですね。今は20人くらいのメンバーがいます。

小松晴香さん(以下小松):私も鎌倉在住なのですが、知り合いを介してこの活動を知って。とても素敵な取り組みだなと思いました。普段はPRの仕事をしているので、自分が持っているスキルでお手伝いができればと、参加させていただきました。畑仕事を手伝うこともそうですが、SNSで宣伝するとか、加工品を作ってHPで売るとか、私たち世代だからできることってあると思っていて。そういったサポートもしていきたいですね。

和光大さん(以下和光):インスタで僕もこの活動を知って、すぐにやりたい!と思い河野さんに直接メッセ―ジしました。鎌倉出身ですし、地元のために何かできるならばと。

河野:僕は環境イベント「アースデイ東京」の事務局長もしているのですが、(和光)大くんはプロサーファーとして環境に対するアクションもしていたから、コロナ渦の前にもイベントで参加してもらっていたんですよ。


和光大さん

小松:環境問題に詳しい人もいれば、まだ勉強中という人もいますが、主婦の方もいるので、地域の方々を集めてマルシェを開催したり、動画クリエイターの方は動画をつくったりと、それぞれの得意分野を少しずつ持ち出しているって感じですよね。

——“援農”という形をとられた理由はなんだったんですか?
河野:
農家さんて、鎌倉のみならず全国的にも高齢化してますよね。継ぐ人も少なくて、あと10年したら8割以上の農家さんがいなくなってしまう可能性があるそうです。それであれば、鎌倉に住んでいる人達が週1回でも畑に入れば、新しいスタイルで鎌倉の農業を守っていけるんじゃないかと思って。「地域のみんなで鎌倉の農業をサポートする」という新しい農業スタイルを提案したかったんです。

——活動してみて、農家さん達はどんな反応でしたか?
河野:まったく知らない他人を農地に受け入れることに抵抗がある農家さんがほとんどなので、そのハードルはすごく高いものがあって、今までなかなかそこに踏み込めない、という現状があったんですが、そこをかん太村の田村さんが仲介に入ってくれた感じです。農家のみなさんも「田村さんが言うなら…」という感じで、徐々に受け入れてくれる農家さんが増えてきました。
 
——具体的にどんなお手伝いをしてるんですか?
小松:季節ごとに違っていて、今だったらちょうど冬野菜が終わって春に向けて畑の片付けをしたり、種植えのサポートをするとか。夏になると収穫のお手伝いをしたり。 


小松晴香さん

和光:男性はビニールハウスの片付けとか、肉体的に重労働なことを特にサポートしますね。

河野:高齢の農家さんが一人でやると丸3日くらいはかかってしまうことも、みんなでいっせいにやれば1〜2時間で終わることもあるんですよ。夏場は特に暑くて大変なので、そういったサポートを積極的にやれるとやっぱり喜んでもらえますね。畑の手伝い以外でも、「ニュー農園」というニュー農マルの農園を作ったり、作った野菜や加工したものを販売していきたいと思っています。

ーー小松さんと和光さんは、このプロジェクト前に畑仕事の経験はあるんですか?
小松:私は秋田出身で、祖父母を含めまわりに農家の方がたくさんいたので、畑で遊ぶことはありましたが収穫を手伝ったりした経験はほとんどありませんでした。「農家さんは大変」と聞くことも多く、後継者不足で悩まれている方も少なくありません。そういったことが鎌倉でも起きているのだと思います。

和光:僕も初めてです。サーフィンやスノボーをする仕事柄いろんな地域に行くんですが、「畑に入るようになってからその土地のものを食べよう」という意識は持つようになりました。そこまで頻繁に参加できてはいないのですが、そんな僕でも意識が変わったので、少しでも体験すれば、何かしらの気づきや想いが生まれるんじゃないでしょうか。ニュー農マルの活動って、気負わなくても良いところが魅力でもあるんですよね。とてもフレキシブルで、「行ける時に行く」というスタンスが好きです。農業というだけで、「ちゃんとやらなきゃ」と身構えちゃう人も多いと思うので。

——「行かなきゃいけない」と思うとプレッシャーに感じてしまう人もいるかもしれないですよね。
河野:
行ける時に行けばいいと思うんですよ。一度でも体験してもらえばわかると思うんですけど、土に触れて身体を動かして汗をかいたり、いろんな人に関わったり、農家の人に「ありがとう」と言われるということが全部体験できるので、「すごく良かった」と言ってくれる人がほとんどです。

小松:本当にいい経験になりますよね。昨年の夏に2歳になる子どもを連れて行って、夏野菜を収穫してナスやゴーヤを持ち帰ったんです。その後、テレビでちょうどその野菜を使った料理が映っていた時に、子どもが「この間穫ったお野菜だね!」と言っていたんですね。ちゃんと料理も何からできていてとか、畑に出ることで学べるんだな、と思いました。教育にもいいですよね。


収穫した野菜たち

ーープロジェクトメンバー以外で援農に参加したい時は、どうすればよいのでしょうか?
河野:参加方法は2つあって、1つはニュー農マルの会員になり、そこで一緒にプログラムをこなしていくという形と、あとは単発で来てもらって体験していただく形もあります。ただコロナもあり一般的な募集は現在様子を見ながら行っています。今後、会員や体験の募集をかける時は、HPやインスタなどのSNSで発信していくので、チェックしていただければと思います。直近では、じゃがいもの種植え〜収穫の体験イベントを考えています!

ーーこのプロジェクトにおいて、この先目指していることを教えてください。
河野:
ゆくゆくは、「地域のみんなが農業に関わる」というこの仕組みを、全国的に広めていけたらとは、思っています。そのためにまずは鎌倉でその形を確立させたいですね。ただサポートするだけではなく、先程も少しお話しましたが、イベントをしたり加工品を販売したりすることで、農家さんにちゃんと収益があるような形もつくっていきたいです。

小松:
畑仕事で汗をかいて、みずみずしく美味しい野菜を食べるのは格別です。ぜひ一度体験してみてください!

和光:ずっと続けられなくていいと思うんです。自分だってそうです。少しでも多くの人が、「参加したい」と思ってもらえたら、嬉しいですね。


農業人口の減少は、年々深刻化している。農家の方々も無理なく働けて、新鮮で安心な食をみんながみんないただけるためにも、農業を持続可能な形にしていくことは今後さらに必要になってくるだろう。 こういった新しい取り組みが広がることによって、素晴らしい循環が生まれることを願いたい。プロジェクトの今後の活動にも、要注目だ。


【ニュー農マルプロジェクト】
HP: http://new-normal.co.jp/
@new_nou_mal

Text by Sonomi Takeo