2020/12/18

INTERVIEW

今、私が追い求める道|経営者・白木夏子さんが、日々のセルフケアを大切にする理由とは

人や社会、環境に配慮したエシカルジュエリーブランド『HASUNA』を2009年に立ち上げ、社会起業家として知られる白木夏子さん。ビジネスの最前線で働く経営者として、そして一児の母として、強く美しく、たおやかに生きる秘訣とは?そして、その原動力とは…?


ーー今でこそ、「エシカル」「SDGs」という言葉は知れ渡ってはいますが、起業された当時の日本ではまだ今ほど広まってはいない時代。大変なこともあったのでは?
「立ち上げ当初は、すべてが大変でした。そもそも起業もジュエリー業界も初めて。その頃はクラウドファウンディングのような支援サービスもなかったですし、まずは貯めた自己資金を使ってなんとかしていたんですが、それも2カ月で底をついてしまったので、前職の上司や友人、紹介していただいた投資家さんをまわって資金集めをしました。女性起業家もあまり多くはいなかったので、お話を聞いたり参考にできるものも少なくて、本当にわからないことだらけ。試行錯誤しながら仕入れ、デザイン、営業、販売と全部ひとりでこなしていました。ファッション業界、ジュエリー業界でエシカルという言葉は全く浸透していなかったので、商品を披露する展示会を開催しても、『エシカルとは』を説明するだけで終わってしまうことも、よくありましたね。」


起業当時、ルワンダに買い付けに行ったときの写真


2012年、パキスタン鉱山にて

ーー大変な思いをしながらも、20代という若さで起業した理由やきっかけはなんだったんですか?
「短大卒業後、ロンドンに留学したのですが、貧困問題の研究をしていた関係で、南インドの鉱山を訪れたんです。そこでは鉱山労働者と寝食を共にしました。その時に衝撃を受けたのが、労働者やその家族、子ども達にまったく笑顔がなかったこと。いろんな国を旅してきましたが、たとえ貧しくても子ども達が笑顔だったり、目をキラキラさせて遊んでいるような国もたくさんあるのにも関わらず、鉱山で働く人達は過酷な労働環境を強いられていて、とても苦しんでいた。人を美しく、幸せにするジュエリーを生産する裏側でそんな現実があることを目の当たりにして、『何かがおかしい』と感じました。『この社会問題をビジネスで解決したい』という想いが募り、ブランドを設立したのがきっかけです。そして、世界を旅して出会った素晴らしいものや人、温かさ、『この世界は美しい』ということを、ものづくりを通して伝えたかった。」

ーーHASUNAは「エシカルジュエリーのパイオニア」というイメージです。
「メディアにはそんな取り組みを珍しがっていただけて、立ち上げ当初から記事でピックアップしていただけることも多く、徐々に認知もしていただけるようになっていきました。そこからはほぼ休みなく、がむしゃらに働いていたので平均睡眠時間も2〜3時間。夜は2〜3件会食をはしごするという生活をしていました。その結果、起業から3年がたった頃ついに体調を崩してしまって。」




HASUNAのエシカルジュエリー

ーーそれまでの疲労が全部出てしまったんですね。
「ジュエリー業界は、Xmasなどイベントが多い12月が一番忙しいのですが、その年末商戦が過ぎたあとにふと緊張の糸がとれたのか、年明けそのまま寝込んでしまったんです。起き上がれないほど腰や肩も痛いし、高熱もずっと続いて。そんな状態が1カ月ほど続きました。病院にももちろん行きましたが、お医者さんには『原因不明』と言われてしまって…。それまで身体的にも無理をしていましたが、頭も常にONモードだったのも要因だと思います。お休みがあっても常にメールをチェックしてしまったり、ずっと神経が休めていなかったんだと思います。」

ーーどうやって回復したんですか?
「とにかくたくさん寝ました。というより、そうするより他なかった。原因もわからなかったし、ある程度は他のスタッフを頼ることにして、ゆっくり休むことにしました。そうしたら、自然と治ったんですよね。昼夜関係なく、がむしゃらに働いていたので心身ともに悲鳴を上げていたんだと思います。そこから、それまでなおざりにしていた自分の身体としっかり向き合うようになりました。ヨガ教室に通ったり、お酒を減らして食事もなるべく自炊に切り替えて、パーソナルトレーナーを付けて筋トレも始めました。特に食事を変えてからはどんどん身体も変わり、体温も上がって風邪もひかなくなったんです。」


バリ島・ウブドでの旅では滝行にも挑戦

ーー今でもそれは続けているんですか?
「できる範囲で続けていますが、基本的には自宅で行っています。ヨガはアプリを使って家でやったり、筋トレも家事の合間にスクワットをしたりとか。あとは1日1万歩を目指して歩いたり…。かなり基本的なことをコツコツ継続している感じですね。」

ーー食事はどのようなことに気をつけているんですか?
「まず、3食しっかり食べるようにしました。人によっては、『3食は食べ過ぎだ』と唱えている方もいらっしゃいますが、私にはしっかり食べることが合っているみたいで。以前は朝食を食べないかジュースだけだったんですけど、代謝が下がってエネルギー不足になり常に眠気がある状態に。食べるようになってからのほうが元気も出て、仕事のパフォーマンスも上がったし、体温も上がりました。食事の量が増えたにも関わらず、体重も増えなかったんですよ。それに、お肉もパンも、揚げ物も大好きなんです!むしろ、お肉を避けてサラダばかり食べていた時期もあったんですが、その頃より代謝が上がったので太りにくくなりました。何かを制限するのではなく、なるべく“今、自分が欲しているもの”をちゃんと身体に聞くようにして、食べたいものを食べています。現代は情報が溢れているので、『○○がいい、○○がダメ』という刷り込みによって頭でっかちになってしまいますよね。人によって合う合わないは違うので、自分の身体で実験してみて、良い方向に変化したら継続して…という風に、なるべく自分で判断するようにしています。」






制限はせず、しっかりと質の良いものを食べることを大切にしている。自炊料理も和洋中さまざま

2008年に起業を決意し、2009年にはHASUNAを立ち上げてからビジネスの最前線で活躍してきた白木さん。経営者、起業家として仕事をしながら、一児の母でもある。多忙な毎日であることは容易に想像できるが、パワフルさや芯の強さもありながらも、柔らかい印象。そのギャップが白木さんの魅力でもある。そのしなやかさは、どこから来ているのだろうか?

ーー忙しい毎日だと思うのですが、メンタル面ではどんなセルフケアをされていらっしゃるんですか?
「ヨガや料理は身体のみならず、リフレッシュにもなっていると思います。あとは毎日2種類の日記をつけています。TO DOノートと感情日記ノートと分けているんです。TO DOノートは昔からつけているんですが、感情日記は数年前、友人にすすめてもらいました。というのも、その友人にある日『夏子さん、表情がないよ! 今ここにいるようでいない感じがする』と言われて(笑)。たしかに、会社を立ち上げてから大変なこともたくさんあって、知らぬ間に自分の感情に蓋をして、“無”になるようにしていたみたいなんです。それはそれで、処世術だったと思うのですが、そのうち“悲しい”とか“楽しい”というような感情の起伏がすっかりなくなってしまって…。それから感情日記をつけるようにしたら、ものすごく“怒り”の感情が出てきたんです。自分でも気づかないうちに相当溜まっていたようで、しばらく怒りちらしていたら(笑)、おざなりにしていた感情が徐々に戻ってきて、いろんな感情を感じられるようになりました。」

ーーノートに書くだけなら誰でもトライしやすいですね!
「ノートとペンがあればできるので、おすすめです。それまではなんとなくポジティブではいるけど、そこまで嬉しいと思うことがない、というフラットな感じだったんです。それがちょっとしたことで喜んだり、幸せだと感じられたり、“生きている”という実感が湧くようになりました。」

ーー2018年にはパートナーシップのあり方を問い直す指輪を展開する「Re.ing(リング)」というプロジェクト型ブランドも立ち上げましたよね。それはどんな想いでつくられたんですか?
「パートナーシップに対する違和感はずっとあったんです。ジュエリーを販売していると、マリッジやエンゲージリングなどはすべて“男女で来店すること”が前提となってしまっているんです。でもペアリングを買うお客さまには、ゲイのカップルもいれば、レズビアンもいますし、パートナーシップの形はさまざまですよね。そんなことを株主や友人たちとディスカッションする中で生まれたプロジェクト型ブランドです。2019年には『REING』としてリブランディングを行い、現在は代表の大谷明日香さんを中心にクリエイティブスタジオとして運営されています。」




『REING』では”多様性”をテーマに、アンダーウェアやジュエリーを展開している

ーー活動の幅をどんどん広げていらっしゃいますが、プライベートでは最近、鎌倉へ引っ越しされたとか?
「そうなんです!それまでの10数年間は港区という大都会のど真ん中に住んでいて。便利なんですけど、自然と共生しながら生活したいというのはずっと考えていたんです。それがようやく実現できました。これからは、海や山に囲まれて自然と共生する中でもっとクリエイティブな活動をしていきたいと思っています。たとえば本を執筆したり、イラストやデザインを描いたり。クリエイティブのインスピレーションって、やっぱり自然が近くにあったほうが沸いてきやすいんですよね。子供の5感を育てる教育にも良いと考えています。まだまだ行ったことない場所がたくさんあるので、これからもっと鎌倉ライフを謳歌したいと思っています!」




鎌倉の大自然に囲まれて

日本で「エシカルジュエリー」というものを広め、これまで精力的に活動してきた白木さん。仕事と育児を両立しながらも輝いているのは、自身と向き合い、情報だけに左右されず、自分だけのブレない軸を持っていることにあるように感じた。
これからもきっと、世界を、地球を豊かにするべく、さまざまな形で夢を実現してくのだろう。白木さんの挑戦はまだまだ終わらない。


NATSUKO SHIRAKI(Instagram:@natsukoshiraki
ジュエリーブランド『HASUNA』代表取締役社長。1981年鹿児島県生まれ、愛知県育ち。2002年より英ロンドン大学キングスカレッジにて発展途上国の開発について学ぶ。卒業後、投資ファンド事業会社に勤務した後、2009年にHASUNAを設立。人と社会と自然環境に配慮したエシカルジュエリーブランド事業を展開。日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2011」キャリアクリエイト部門受賞。2011年、世界経済フォーラム(ダボス会議)が選ぶ日本の若手リーダー30人に選出。2012年、ロシアAPEC日本代表団として「女性と経済フォーラム」に参加。2013年、世界経済フォーラム年次総会に出席。著書に『世界と、いっしょに輝く エシカルジュエリーブランドHASUNAの仕事』(ナナロク社)、『自分のために生きる勇気』(ダイヤモンド社)など。女性の働き方や起業、ブランディング、サスティナビリティ、ウェルビーイング、SDGs等をテーマに国内外で講演活動も行っている。

Text by Sonomi Takeo