2020/11/08

REMEDY

塩の控えすぎはよくない?健やかに生きるための塩の選び方と取り入れ方

ミネラルが豊富な塩を十分に取り入れることは、健やかなライフスタイルをおくるためにとっても大事なこと!今回は塩を摂取する重要性、どんな塩を選べばいいのかを、ソルトコーディネーターの青山志穂さんに教えていただきました。

塩は高血圧の原因などと悪者にされがちで、何かと減塩を選んでいたかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし塩は私たちの健康をつかさどる、なくてはならないもの。生きていくうえでは強い味方なのです。
「現代人は塩が足りない」とも言われ始めています。
塩はどんな役割を持ち、どんな塩を摂ることが効果的なのでしょうか。塩の大切さを知るべく、今回は「塩と健康の関係性」について、ソルトコーディネーターの青山志穂さんにお話を伺ってきました。

ーーまず、青山さんが塩の専門家になるまでの経緯を教えていただけますか?
「昔から食には興味があったので、新卒で食品メーカーに入社したんです。開発にも携わっていたのですが、その時は『塩はナトリウムだけのものとそうでもないものがある』くらいの知識しかありませんでした。結婚を機に沖縄へ移住することになり退職して、やはり食の仕事がいいなぁと思って転職先を探していたら、『塩屋(まーすやー)』という塩の専門店が募集をしていて、入社しました。それが14年前のことです。そこから塩についてたくさん調べているうちにすっかりハマってしまって」

ーー沖縄にもたくさん塩の種類がありますよね。
「塩屋で取り扱っている塩だけでも約400種類もありました。その塩を全部なめてみたら、全部味が違うんですよ。なぜだろう、という素朴な疑問から、たくさんの本を読んだり、専門家さんのお話を聞きに会いに行ったり、生産地を巡ったりしていました。もともとオタク気質なんですよね(笑)。塩をつくる生産者さんたちって、とにかく変わり者なんです。まず情熱がすごい。塩っていち調味料という立ち位置だけじゃなく、人の生命維持にも大切なものなので、『人のためにいい塩をつくりたい』という一心で塩をつくっているんですよ。何度か通ううちに仲良くなって、話をたくさん聞いているうちに『この人たちに陽の目を当たらせてあげたい!そのためには多くの人に伝えることが重要だ』という気持ちがつのって、独立してソルトコーディネーターになりました」


日本各地の塩生産地を巡った(左から青山さんと生産者さん)


青山さん自宅にある塩コレクション

ーーたしかに野菜やお米と違って、生産者さんの顔が見えづらいかもしれないですね。
「そうなんです!こんなに面白くて熱い想いを抱いているのにもったいなぁと。この人たちにフォーカスすれば、もっと塩の価値が高まるんじゃないかと思ったんです。塩って原料が海水だからお金かからなそうによく思われるのですが、海水を塩にするには長い時間がかかるので、意外と儲からないんですよ」

ーー塩ができるまでに、どれくらい時間がかかるものなんですか?
「製法や量によっても異なってくるので一概には言えませんが、海水の塩濃度は3%で、それを10倍くらい濃縮しないと塩はできないんです。それを太陽と風だけでつくる場合は3カ月くらいかかります。しかも海水1t汲んできたとしても、約25kgの塩しかとれません。釜炊きにすると重油や薪などの燃料費がかなりかかりる。時間もかかるので人権費もかかる。かなり大変だし、時間もお金がかかるものなんです」

ーー手間も時間もかかっているんですね。では本題に入りますが、塩が人間に大切な理由について教えてください!
「話は地球に生命が誕生したところまで遡ってしまうのですが…。人類が海から陸へ上がった時の海水は、約0.9%の塩濃度だったと言われています。当時の海を体に取り入れて生まれているので、人間の体内の塩分も約0.9%です。人間の体の約60%は水ですが、そのうち約09.%は塩ということなんです。なので、まず塩がないともともと備わっている体内バランスが崩れてしまいます」


塩の結晶

ーー塩は具体的に体内ではどんな働きをしているのでしょうか。
「塩には私たちの生命維持に不可欠な栄養素『ミネラル』が含まれています。ミネラルは酵素やビタミンを働かせる機能があるので、逆に言えばミネラルがなければそれらは十分な働きができません。このミネラルが不足することで必要な栄養が吸収されづらかったり、あらゆる体の不調の原因に繋がります」


青山さんがプロデュースした塩も

ーー現代人に塩が足りないのはなぜでしょうか?
「塩の主成分にはマグネシウム、カリウム、ナトリウム、カルシウムという4大栄養素が含まれています。これらがバランスよく含まれていることでミネラルとしての働きを発揮するのですが、「食塩」や「食卓塩」「精製塩」はほぼ塩化ナトリウムだけで構成されています。カリウムが余分なナトリウムを排出する機能があると言われているのですが、そのカリウムがないとナトリウムの排出が促進されないので体内に留まりやすくなります。ナトリウムを過剰摂取すると何が起こるかというと、ミネラルのバランスが崩れるので一時的に血圧が上がったりむくみが生じます。それが『塩の摂り過ぎ=高血圧』と一般的に考えられるようになった所以です。加工食品などに含まれる塩は大抵が塩化ナトリウムを主体とした塩なので、現代人はそれ以外のミネラルが足りなくなってきたんだと思われます。ですので、4大ミネラルがバランスよく含まれている塩を選ぶのがおすすめです」

ーーどんな塩を選んでいるかが重要なんですね。塩が足りないとどんな不調につながるのでしょうか。
「塩=ミネラルが足りなくなると、新陳代謝が悪くなったり、体温が下がることで免疫が下がったり太りやすくなることも。体内の循環も悪くなり、脱水症状やむくみの原因にもなると言われています」

ーー1日にどれくらいの量を摂ればいいのでしょうか。
「厚生労働省からは、一日に男性は7.5g、女性が6.5gと推奨されていますが、経験上でいうともう少し摂っても大丈夫かなとも思います。私の場合は一日12〜15gくらいは摂っています。でもこれは個人差もありますし明確には言えないのですが、あくまで目安にしてみてください。普段から運動しているかどうかでも違います。汗をたくさんかくと一緒に塩分も排出されるので、運動したあとは積極的に塩を取り入れるとか、ライフスタイルによって調節するとよいと思います。気をつけていただきたいのがお酒を飲んだあと。翌日たくさん水を飲んだりしますよね? ただでさえお酒を飲むと利尿作用があるので脱水症状が起きてしまっているのに、水ばかり飲むと逆に、体内の塩分が足りなくなり低ナトリウム血症になってしまい、頭痛が起きたりすることも。お酒を飲んだ翌日は、ぜひ塩水を飲んでください!」

ーー二日酔いで水ばかり飲んでいる人はたくさんいそうですね!ミネラルバランスに優れた塩を選んで自炊することが一番だと思うのですが、外食が多い場合はどうすればいいでしょう。
「塩を小分けにして袋に入れて持ち歩いて、こまめになめてもいいですし、たとえば朝、紅茶や白湯に塩をひと匙入れて飲んでもよいと思います。冬場はちみつやすりおろし生姜などを一緒に入れてもいいですね。塩は代謝を高める作用もあると言われているので、それだけで体がポカポカ温まりますよ! 私も塩をなめはじめて一年後、体温が1℃上がりました。また、外食続きで塩分摂り過ぎを感じたら、ナトリウムを排出してくれるカリウムが豊富なバナナやキウイ、葉野菜などを多めに摂るとよいです。私はカリウムリッチな食材を“チャラ食材”と呼んでいます」

ーー代謝を高めるほかに、塩に期待できる作用はありますか?
「マグネシウムには鎮静効果があると言われているので、イライラしがち、ストレスが溜まっていると感じている人はマグネシウムリッチな塩を選ぶと良いと思います。塩によっては鉄分が豊富なもの、硫黄の風味があるものなど4大栄養素以外にも特化した栄養素が豊富に含まれているものもあるので、自分の体に必要なものに合わせていろんな種類を探してみると楽しいですよ」

ーーでは、自炊するときに塩を取り入れる時におすすめの料理法はありますか?
「まずは無塩で調理して、食べる時にふりかけるのが一番です。なぜかというと塩って舌に直接つけることが最も塩味を感じることができるんです。塩って溶かしてしまうと塩カドがとれて味が弱くなってしまうのでついつい多めに入れ過ぎてしまうんですよね。過剰に摂り過ぎるのもむくみの原因になったりと健康面にはよくないので、肉や魚などの下処理に使用する以外は最後に調節できるようにするのが適切な量をいただけるし、食材の味わいも楽しめます。それに、ご家族の中で高血圧の方がいたりした場合、全体的に味が薄くなりがちですよね。もし育ちざかりのお子さんもいた場合、満腹にはなってもなんだか物足りなくて食後にお菓子や別のものを食べたりしがちなんです。それでは本末転倒なので、個々で塩加減を調節できるという意味でもよい方法だと思います。つくるほうも楽ちんですよね(笑)」


塩まぐろ


いろんな料理と好きな塩を用意して味を変えて楽しむことも


スイーツやコーヒーに塩を入れてもおいしい

ーーなるほど!違う塩を使えば同じ料理でも味が変わって楽しめそうですね。
「そうなんです。日本に流通する塩は4,000種類以上あると言われているので、自分が好きな塩を集めて、気分や食材によって使う塩を変えたり、いろんな楽しみ方ができるので自分が好きな味の塩を見つけてみてください。それに塩は大容量で売られていることが多いので、余ってしまいがちかもしれませんが食べる以外でも、美容でも活躍してくれますよ」

ーーどんな使い方をされていますか?
「私は塩を少し水で溶かして、顔やボディのピーリング代わりにしています。その場合、沖縄の『雪塩』や『ぬちま―す』のようなパウダー状の塩だと肌にやさしくおすすめです。顔やボディをピーリングして、そのまま塩まみれのままお風呂に入ればバスソルト代わりにも。お肌がすごくツルツルになりますよ。頭皮のマッサージとして使っても、毛穴の汚れがとれてスッキリ! ちなみにバスソルトにはマグネシウムリッチなお塩を選ぶことで、お肌の保湿にも役立ちますよ」

ーー食用の塩でも美容でも活躍するなんて、万能ですね。
「塩は本当に万能で、盛り塩など浄化としても昔からよく使われていますよね。実際に、新月と満月でとれる塩って同じ生産地、製法でも味が変わってくるんです。これは海水のミネラルバランスが変わることで塩の結晶に含まれるミネラルバランスが変わることが要因です。海ガメや珊瑚も、満月の日に産卵しますよね。それくらい月の満ち欠けで塩自体も変わります」


沖縄の高江洲製塩所の新月・満月の塩


パキスタン産の岩塩でつくられた「福しお」の盛り塩を愛用中

ーー昔から塩が親しまれてきた理由がわかってきました。まずはミネラルバランスを見ながら用途によって様々な塩を集めてみるとよいですね! 
「日本でとれる塩はほとんどが海塩ですが、海外は岩塩が多いですし、海塩の中でも藻塩などいろんな種類が存在します。調べて取り寄せてみたり、塩専門店で味見をしたりと、ぜひ塩の世界にたくさん触れてみてください!」


青山 志穂(Instagram:shiho_aoyama_
沖縄移住をきっかけに塩の奥深さにハマり、「塩のおいしさ、面白さを伝えたい!」と塩を研究して14年。全国各地、訪れた塩の生産地は200カ所以上。現在は日本ソルトコーディネーター協会を立ち上げ、代表を務める。著書に「日本と世界の塩の図鑑」(あさ出版)など。
通販サイト https://mineralstore.net/

Text by Sonomi Takeo

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