2020/09/30

WELLNESS

禅から考える、マインドフルネスと瞑想とは

ここ数年、マインドフルネスや瞑想という言葉をよく耳にします。すでに体験した方もいるのでは?これらはどこから生まれ、どんな概念からきているのか。そのルーツとは? 

今回は、マインドフルネスと瞑想に関するさまざまな著書を出版されている、鎌倉一法庵の禅僧・山下良道さんに日本で古くから伝わる禅との関係性、考え方についてお話を伺ってきました。


マインドフルネスは「いつもの日常を変えること」で実現する


ーーここ数年で、「マインドフルネス」という言葉が浸透してきて、瞑想を習慣に取り入れる人も増えてきました。禅僧である山下良道さんは、著書でもマインドフルネスについて書かれたものを多数出版されていますが、そもそも禅とマインドフルネスはどう違うのでしょうか。
「瞑想としてのマインドフルネスは、『静かに座り、雑念を払って心を整える』ということですが、これは『坐禅』と概ね同じです。ただ、厳密に言うと歴史的文脈が違います。マインドフルネスという概念や言葉自体は南アジアから伝わった仏教(テーラワーダ仏教と呼ばれる)から由来したものですが、アメリカのビジネスシーンやカウンセリングなどの医療現場で20年ほど前から取り入れられるようになり、いわば現代風にアレンジされ、再び日本という仏教国に逆輸入されたような形です。ですので、本質的には同じなんです。ただアメリカのようなキリスト教国で仏教などの宗教的な教えや考え方を入れてしまうと無用な混乱が生まれてしまいます。それでその部分は特に説明されることがなかったため、仏教とは別のものとして日本でも浸透しました。



禅寺では雑巾掛けや料理、畑仕事などさまざまな仕事があります。そういった日常生活で身体を動かす作業のことを『作務(さむ)』というのですが、昔は特にこれらを『なぜするか』という意味まで教えられてきませんでした。でもこれは、いわゆるマインドフルネスになるためだったのです。余計なことは考えず、でもボーッとただ無意識に行うのではなく、ちゃんと意識して目の前のものに没頭したり集中することが大切。マインドフルネスという言葉が再び日本にやってきたことで、作務などの意味が改めて見出せたということにもなります。」

ーーマインドフルネスと聞くとつい特別なことをしないといけない気持ちになってしまいますが、そういった日常の中でも実現できるんですね。
「日常の中に取り入れるというよりは、『日常を変える』ということがポイントです。毎日の掃除、料理、片付けなど、日々やることが山ほどありますよね。その作業を『マインドフル』にやれば、それで十分です。大根の皮をむきながら、他のことを考えたりすることはいくらでもできますが、どうゆう態度でそれをするか、なのです。つまり、“大根の皮をむいている今”に集中すること。それがマインドフルネスに繋がります。朝2〜3時間早く起きて特別なことをしなくてもいいんですよ。毎日の大根を切る意識を変えるだけ。」

ーーとても身近なことだったんですね。
「日本人なんてもともと手仕事が得意でしょう。職人さんのものづくりや畑で雑草を抜くことだって、マインドフルネスだったのです。」


人間の心は「過去」と「未来」で創作された映画で占められている

ーー根本的なことなのですが、なぜマインドフルネスや瞑想が必要とされているのでしょうか。
「まず理解すべきことは、我々の心は勝手に心配のタネを膨らませる生き物だということです。過去にあった嫌なことを何回も思い出したり、まだ起こってもない未来に不安になったりする。それを繰り返していたら苦しくなって当然です。
これを『モンキーマインド』といいます。お猿さんは、一日中枝から枝へとぴょんぴょん飛び移って過ごしていますよね。でも、お猿さんはそれが当たり前すぎて自分がそうていることに気づかない。そんなお猿さんに向かっていきなり『止まれ!』といったところでそこで止まれるわけがない。人間も同じで、思考はずっとあっちこっちいくようにできているんです。つまり、瞑想して急に思考をやめようと思ったところですぐにできるわけがないんです。『呼吸に集中しろ』と言われても、0.5秒後にはもう思考は呼吸なんて忘れてどこかにいってしまうものなんです。でもそれでいいんです。



そこで、『自分の心はそれだけ一カ所にとどまることができない』ということに“気づく”ことが大切です。でもそれがとても素晴らしい一歩で、『あらゆる問題の原因は自分の心にあるのでは』ということがわかるようになることです。それだけでもいろんなことがスッキリしてきます。」

ーー「瞑想してもなかなか集中できない」という声を聞きますが、それでよいんですね。
「瞑想は最初は失敗して当たり前なんです。生まれた時からそうしてきたわけですから。この思考のシステムに関しては、人種や性別、年齢関係なく、全人類同じなんです。私は過去や未来のことを常に考えてしまうことを、よく『自分でつくり出した映画』という言い方をしています。映画を観ると現実に起こっているわけでもないのに、スクリーンに出てくる登場人物に感情移入し、ドキドキしたりハラハラしたりしますよね。あれと同じで、『過去』というドキュメンタリー映画をつくり、『未来』というフィクション映画を頭の中で上映しているようなものなんです。自分でつくった恐怖映画を観てぶるぶる震えているわけですから、バカバカしいでしょう?(笑)」

ーーたしかに、今起きてない出来事に対してよく考えたりしているかもしれません。
「Aさんという人に侮辱された過去を思い出したとして、『Aさんが悪い!Aさんに私は苦しめられていきた』となるのか、『この過去を何度も思い出して私を傷つけているのは自分の心だ』と思うのかで、まったく違います。たしかにその過去は事実かもしれませんが、今思い出して自分を痛めつけているのは、自分なんですよね。それがわかることで、他人に対する理解がすごく深まります。だから、(その気づきを知るために)瞑想のはじめは失敗するべきなんです。その失敗にとんでもない発見があるわけですね。
逆にいえば、瞑想したらいきなり幸せになるわけでもありません。今まで通りあらゆるネガティブなことに反応もしてしまうとも思います。でも、瞑想のときに思考がとどまらないのではなくて、普段からとどまることができてないんだけれども、それが瞑想のときにバレちゃうってだけなんです。そしてそんな自分の心に気づけたあとどうするかというと、鍵になるのが「身体」です。身体を動かすことをすると、とても良いと思います。」

ーー運動するということでしょうか?
「そうですね。心がネガティブになったら、ウォーキングでもランニングでも、山登りでもいいので身体を動かすことをひとつの手がかりにすると、あっちこっちいっていたネガティブな思考をとめる方法に繋がります。だから身体を動かすことに中毒になる人が多くいるんです。『身体を動かすのが好き!』と言う人がよくいますが、実は身体を動かすことで心が鎮まることを求めているわけです。それが雑な方向にいくとお酒にハマってしまったりするわけですが、こういったことはつかの間の解放で、ストレスや辛さを誤摩化しているに過ぎません。
現代人は生活が便利になりすぎて、身体を動かさなくなって心や頭だけで生きている感じがします。それなのにいきなり瞑想をしても、普段は真逆な状況にいるわけですからそう簡単にはいきません。そのために身体を通して近づいていくと、段々と鎮まっていくことがわかってきます。」



ーーなるほど。それでも瞑想自体は続けたほうがよいでしょうか?
「もちろん、ただ身体を動かすだけでは、その先に進めません。そこで、座って瞑想する必要があります。瞑想は習慣化して身体に染み込ませていくことが大切です。継続するためにはワークショップや教室などに通い、先生の指導のもとで瞑想することをおすすめします。何十年もかけてできたクセなわけですから、そこから抜けるのは自分ひとりではなかなか難しいはずです。誰かの誘導があったほうが近道ですし、そういった場所に身を運ぶことで瞑想しやすくなります。新型コロナウィルスの影響によりオンラインで発信している指導者も多いですよね。私もオンライン上で坐禅会を開催していますが、そういったものや瞑想アプリなんかも活用されてもいいと思います。」

ーーそうやって習慣にしていくことで、どのような変化が生まれるのでしょうか。
「日常生活でマインドフルネスを意識しながら瞑想を続けることで、仕事の効率が上がったり、人間関係も良好にはなり得ます。余計なことを考えることが減るわけですから仕事は当然効率化されるでしょうし、人や環境、状況のせいにすることもなくなるので人間関係においても良い方向に変化していくはずですよね。学生さんなら勉強に集中できるので成績も良くなるかもしれない。でもそれらは結果として後からついてくるものでそれが目的ではありません
まずは自分の心の在り方を知ること。すべては自分の心に問題があったと知ったとき、もしかしたら絶望的な気持ちになるかもしれません。でも逆に言えば、自分の心なら変えられるということです。どんな状況であっても、その状況が絶望的だからあきらめるのではなく、逆転できるかもしれない。そう思えてくるでしょう。
今までは『この不安って一体なんだろう』って思っていた方もいるかもしれませんが、問題が『自分の心』と気づけば、解決のための的はひとつに絞れたわけです。これだけでも素晴らしい一歩!それだけは、覚えておいてくださいね。」

禅とマインドフルネスには深い関係があり、とても身近なものだということがわかりました。難しいことと捉えず、焦らず日々に取り入れていくことで徐々に変化が生まれるかもしれません。そうすれば、きっと人生がもっと豊かになるはず!
次回は山下良道さんに、「瞑想を正しく続けるための実践編」を教えてもらう予定です。お楽しみに!


山下 良道
鎌倉一法庵住職。東京外国語大学仏語科卒業後、曹洞宗僧侶となる。1988年にアメリカのヴァレー禅堂で布教、のちに京都曹洞禅センター、渓声禅堂にて坐禅指導を行う。2001年にはミャンマーで具足戒を受け比丘になる。2006年に帰国後、鎌倉一法庵を拠点に国内外で坐禅指導を行う。著書に「本当の自分とつながる瞑想入門」(河出書房新社)、「マインドフルネス×禅であなたの雑念はすっきり消える」(集英社)がある。

Text by Sonomi Takeo