2020/04/02

REMEDY

「SNSと心地よく付き合っていく方法」を安藤美冬(miffy)さんが伝授

Photo by Shutterstock

ノマドワーカーの元祖でもあり、作家・コメンテーターとして活躍している安藤美冬さんことmiffyさんがデジタルとの関係性について語る、全3回コラム連載。最終回は、「SNSと心地よく付き合っていく方法」がテーマです。

連載第1回目はコチラから!
連載第2回目はコチラから!

すべては自分の心次第



前回のコラムで、SNSをやめたことで「タイミングよく人との出会いや情報、仕事がやってきた」体験をシェアしました。しかし、いいことばかり起きたわけではありません。「こうなったら嫌だな」と怖れていたことがそのまま現実になってしまったり、せっかくの行動がことごとく空回ったりすることもありました。

例えば、原稿を書き始めてみたものの思うように筆が進まず、イライラがおさまらない。気をそらそうとネットを見てみたら、私が原稿で書きたいことと真逆の主張をしているベストセラー本の情報が目に飛び込んできて、本当にこんなことを書いていいのか不安になってしまったこと。
あるいは、骨折した友達の労いにお見舞いへ行ったら、彼女の話を聞いているうちに「私も骨折したらどうしよう」と一瞬、不安がかすめてしまい、すると、2週間も経たないうちに本当に左足を骨折してしまった悲劇(?)にも見舞われました。

ポジティブ・ネガティブ両面の体験をしてみて、その違いは何かと考えてみると、答えはすごくシンプルなところにいきつきました。
タイミングのいい時は、私が「ポジティブな状態」にいて、好ましくない事が起きたりする時はたいてい「ネガティブな状態」にあったのです。
結局のところ、「自分の状態がすべて」なのだと気づかされました。

SNSを活用していた頃も、思い返してみれば心に余裕がなく、自分に自信が持てない時ほど、誰かの投稿を見て、ますます気持ちがふさぎこんでしまうことがありました。
心ないリプライに対しては、自分が全否定されているような気がして、攻撃的な気持ちがこみあげる時もありました。



ところが同じ状況にあっても、自分の心が満たされていて、イキイキとした状態にあった時は、誰かの幸せを見ると心から祝福したい気持ちになったものです。そして、心ない否定の言葉を送られても、これは私を叱咤激励してくれているひとつの形なんだな、と感謝の気持ちをもつことだってありました。

現代は、SNSの時代といっても過言ではありません。実際、私がSNSをやめていた時につくづく実感したのは、現代人はSNSのことばかり考えているし、話しているという事実です。

人に会うとそれが顕著に分かります。多くの人は無意識的にしているのかもしれませんが、話題の中心はたいていSNSに関わることです。
誰かが最近こんなことをしている、いまこんなものが流行っている、このツイートがめちゃくちゃ拡散されている、こうした調子で、人はSNSを見て、語って、意識をそこに向け続けています。
だからこそ、SNSで見聞きすることに一喜一憂もするわけですが、根底にあることを言えば、SNSがあろうとあるまいと、自分自身がいい状態でいれば、目にする情報は自分に活かせる情報になるし、つながった人とはいい関係をつくっていくことができるわけです。

こうしたことは、SNS時代うんぬん以前からあちこちで言われてきた、当たり前のことかもしれません。その当たり前のことを体感できたことが、SNSから離れたことで得た恩恵なのです。

SNSと上手に向き合っていく方法とは?



最後に具体的に二つ、現代のSNSとのつきあい方についてアドバイスを書いてみようと思います。

一つ目は、あなたにとって「いい情報」の見極め方についてです。この答えも、とてもシンプル。
いい情報は、あなたをポジティブな気持ちにさせてくれます
例えばそれを聞くと(目にすると)、前向きな気持ちがあふれ、自然と何かをやりたくなる、そんな風にあなたを「未来へと動かす」ものです。
そうでない情報は、反対に、あなたをネガティブな気持ちに落ち込ませます。あなたのやる気をそぎ、不安や焦りを喚起し、「過去へと立ち止まらせて」しまうものなのです。
ぜひ、「いい情報」を選んでください。
もっと情報(や人とのつながり)に意識的になって、自分が心地よく感じられるもの、幸せ感や、満たされた気持ちに浸れるもの、あるいはひらめきが降りてきて、何かをしたくてたまらなくなるようなものを取り入れるようにしてください。
逆に、見ていて(読んでいて)嫌な気持ちになったり、不安になったり、やる気をそがれてしまうような情報(や人とのつながり)からは意識的に距離を置くことです。先に書いたように、すべては自分の状態が影響するからです。



二つ目は、SNSで嫌な気持ちになったり、もやもやとした気持ちが湧き上がったりすることを、自分を見つめるチャンスに変える方法です。
心理学用語に、「フォーカシング」というものがあります。
これはアメリカのジェンドリンという哲学者、カウンセラーが体系化した手法で、クライアントたちに施すカウンセリングに効果が現れる人と、そうでない人たちの差は何かをつきとめる実験をした際に生まれた用語です。

カウンセリングに効果があるクライアントの共通点は、「自分の心を表現する言葉を、丁寧に探っている」という点にありました。時に言い淀みながらも、自分の悩みや感情を的確に表現する言い回しをなんとか探っている点だったのです。
一方で、カウンセリングをしても一向に変化が現れないクライアントは、「悲しい」「怒っている」など強くはっきりした感情だけを訴え続け、その感情を深く探ることをしていなかったのです。
そしてジェンドリンたちは、「何かはっきりしないが、漠然と体が感じる感覚」というものに「フェルト・センス」と名づけました。

体が感じる感覚といっても、足をぶつけた痛みのような身体的な感覚ではなく、例えば気がかりなことがあるときの胃が重苦しい感覚、締め付けられるような感覚など、心理的な要因がもたらす感覚をこう名づけたのです。
さきほどの、人の投稿を見て感じるもやもやは、まさに言葉にならないフェルト・センスです。

大切なのは、このもやもやにフォーカシング(焦点を当てる)をして、言葉にならない体の感覚に言葉を与えること。
私はこんなに頑張っているのに、この人は周りにいつも認められて、しかも経済的にも豊かな生活を送っている。すごく悲しいし、惨めに思うし、私にはそんな幸せな生活を送るような価値はないなって、感じる」というように。
自分の中にあるもやもやとした気持ちに言葉を与え、はっきりと認識できたとき、まるで「これだ!」と解放感を味わいます。
これを「フェルト・シフト」というそうです。

こうした自分の内側と向き合い、もやもやを手放していく作業を続けていくと、ちょっとやそっとのことでは揺るがない、しっかりとした「自分軸」が生まれてきます。それは、自信とも言えるし、心の余裕とも言えます。
SNSをやれば見えてくる、多様な人たちの振る舞いや意見、人生そのものに、いちいちネガティブに反応することなく、「人は人、私は私」と思えるようになるのです。
フォーカシング→フェルト・センスに言葉を与える→フェルト・シフト(解放)という一連のやり方を応用して、「自分にどのやり方、情報が合っているのか」ということに使うこともできるでしょう。
自分の体の感覚に注意を向けて、一つ一つの情報に集中します。
例えば本であればそれを手に取ってみる。ネットの情報であれば、情報を目にした時の感覚を感じ取る。
信頼できる人からの口コミであってもすぐに飛びつかず、少しだけ時間を取ってみて、「自分はどう感じているのか」をじっくり感じ取ってみるのです
こうして、「情報を感じ取る」というところまでマスターすれば、メディアや口コミなどの情報のパワーにおされることもなく、本当に自分に合う食事、ダイエット法、人など様々な場面で役立てることができると思います。



私は750日間のSNS断ちを経て、2020年1月にネット世界へと復帰しました。
完全離脱していたこの時間の中で、じっくりと私自身が望むものや心の声と対話したことで、以前とは違うステージでSNSと生きていけるような気がしています。
使いこなすのは心ある人間だからこそ、これからもこうした対話から逃げず、丁寧に情報発信活動をやっていけたらと思っています。
 私の実体験が、気づきのきっかけや、生活を変えていくきっかけになれたら幸いに思います。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

ーー
3回に渡って、miffyさんがSNSをやめてから復活するまでの体験談と、それによって気づいたことをお話いただきました。SNSの先駆者として活躍してきた彼女の言葉だからこそ、より深く胸に響くものがあります。
SNSなどのデジタルすべてを否定するのではなく、切り離せない現代だからこそ、これからも上手に活用していけるといいですね。




安藤美冬(miffy)
1980年生まれの情報発信者、著者。慶應義塾大学在学中にオランダ・アムステルダム大学に交換留学を経験。株式会社集英社勤務を経て独立。SNSから2年ほど離れた充電期間を経て、2020年春から本格的に発信活動を再開。ただいま音声配信アプリhimalayaにて、人生相談コーナー「miffyのコーヒーブレイク」を毎朝7時に配信中。「情熱大陸」「NHKスペシャル」などメディア出演多数。著書に『冒険に出よう』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『未来を動かす』(Voice)、『ビジネスパーソンのためのセブ英語留学』(東洋経済新報社)、『会社を辞めても辞めなくてもどこでも稼げる仕事術』(SBクリエイティブ)などがある。

公式ブログ
毎朝7時、音声配信中

Text by 安藤美冬、Photo by Shutterstock

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